給与明細の健康保険料と厚生年金保険料は、その月の給与額そのものから計算されているのではありません。「標準報酬月額」という、あらかじめ幅で区切られた金額に料率をかけて出しています。
この区切りが段になっているため、報酬が少し増えて次の段に移った瞬間、保険料は段差で上がります。額面の増え方より保険料の増え方が大きければ、差し引きで手取りは減ります。
令和8年度の料率で年収100万円から1,200万円までを1,000円刻みに計算したところ、額面が1,000円増えて年間の手取りが減る点が42か所ありました。最も差が大きいのは額面4,739,000円から4,740,000円へ動く点で、年間の手取りは42,489円減ります(賞与なし・40歳未満・扶養なし・東京都・年収を12等分した月収で計算)。一覧は額面が上がると手取りが下がる点にまとめました。
標準報酬月額は幅で区切られている
健康保険は第1級から第50級、厚生年金保険は第1級から第32級に分かれます。たとえば厚生年金保険で報酬月額が395,000円以上425,000円未満なら、標準報酬月額は410,000円です。この範囲に入る人は、報酬が396,000円でも424,000円でも、同じ410,000円を基準に保険料を計算します。
報酬が425,000円になると次の等級に移り、標準報酬月額は440,000円になります。基準額が30,000円上がるので、厚生年金保険料(労使折半で本人負担9.15%)は月あたり2,745円増えます。健康保険料も同じ幅で上がります。報酬の増加が1,000円でも、保険料は等級ひとつ分まとめて増えます。
いつ決まり、いつ変わるか
標準報酬月額の決まり方は、日本年金機構が二つの手続きとして定めています。
定時決定は毎年の見直しにあたる。7月1日時点で使用されている被保険者について、4月・5月・6月に支払われた報酬の平均から標準報酬月額を決め直します。この3か月はいずれも支払基礎日数が17日以上(特定適用事業所の短時間労働者は11日以上)である必要があります。決まった標準報酬月額は9月から翌年8月まで適用されます。
随時改定は年の途中の変更にあたります。昇給や降給などで固定的賃金が変わり、変動月以後の3か月の報酬の平均から算出した標準報酬月額が、それまでの標準報酬月額と2等級以上離れた場合に該当します。この3か月も支払基礎日数17日以上が要件です。改定後の標準報酬月額は、変動後の報酬を初めて受けた月から数えて4か月目から適用されます。4月に給与が変わったなら、7月からです。
標準報酬月額は4月から6月の報酬に強く影響されます。この時期に残業が多かった人は、その後1年間の保険料が高くなります。この時期の報酬が少なければ、年間を通じた実際の収入が同じでも保険料は低く出ます。
段差が生まれる場所
保険料が段差で上がる一方、額面は連続して増えます。両者の増え方の差が、手取りの逆転として表に出ます。
差が大きくなるのは、等級の幅が広い帯です。標準報酬月額の等級は、報酬が高くなるほど1等級あたりの幅が広くなります。健康保険の上位等級では幅が3万円を超えるため、境目をまたいだときの保険料の増加も大きくなります。前述の42か所のうち、年間の減少額が3万円を超えるものは10か所あり、いずれも額面4,739,000円から7,619,000円の帯に入る。
減少額の大きい順に並べると、次のとおりです。
| 額面(前) | 額面(後) | 年間手取り(前) | 年間手取り(後) | 年間手取りの減少額 |
|---|---|---|---|---|
| 4,739,000円 | 4,740,000円 | 3,757,041円 | 3,714,552円 | 42,489円 |
| 5,099,000円 | 5,100,000円 | 4,028,657円 | 3,986,168円 | 42,489円 |
| 5,459,000円 | 5,460,000円 | 4,292,173円 | 4,252,184円 | 39,989円 |
| 5,819,000円 | 5,820,000円 | 4,551,789円 | 4,511,800円 | 39,989円 |
| 6,179,000円 | 6,180,000円 | 4,811,405円 | 4,771,416円 | 39,989円 |
| 6,539,000円 | 6,540,000円 | 5,070,821円 | 5,031,032円 | 39,789円 |
| 6,655,000円 | 6,656,000円 | 5,125,857円 | 5,088,852円 | 37,005円 |
| 7,619,000円 | 7,620,000円 | 5,720,569円 | 5,685,680円 | 34,889円 |
| 6,899,000円 | 6,900,000円 | 5,271,137円 | 5,236,548円 | 34,589円 |
| 7,259,000円 | 7,260,000円 | 5,495,853円 | 5,461,264円 | 34,589円 |
いずれも額面は1,000円増えています。全42か所の一覧は、CSVとJSONで額面が上がると手取りが下がる点に置いています。
なお、この計算は年収を12等分した月収を標準報酬月額とみなすモデルによるものです。実際の標準報酬月額は4月から6月の報酬で決まるため、境目の位置は人によって前後します。ここで確かなのは「境目が存在すること」と「そこで何が起きるか」であって、特定の人の境目がどこにあるかではありません。
税率には段差がない。段差は控除と定額の側にある
所得税は課税所得に税率をかけ、税率の段階ごとに控除額を引いて計算します。この控除額は、税率が変わる境目で税額が連続するように設定されています。課税所得が3,299,000円から3,300,000円に増えても、税率10%から20%に上がったぶんは控除額427,500円が吸収するので、税額は連続して増えます。
所得税の速算表と住民税の所得割(一律10%)には段差がありません。ただし、段差が社会保険料だけの話かというと、そうではありません。前述の42か所のうち39か所は等級が上がった点ですが、残る3か所は等級が動いていません。
| 額面(前) | 額面(後) | 年間手取りの減少額 | 原因 |
|---|---|---|---|
| 1,190,000円 | 1,191,000円 | 4,005円 | 住民税の非課税限度額(均等割4,000円+森林環境税1,000円) |
| 6,655,000円 | 6,656,000円 | 37,005円 | 所得税の基礎控除の区分 |
| 8,500,000円 | 8,501,000円 | 9,505円 | 所得税の基礎控除の区分 |
1つ目は、合計所得金額が非課税限度額45万円を超えて、住民税の均等割と森林環境税が立ち上がる点です。均等割と森林環境税は定額なので、超えた瞬間に5,000円がまとめて乗ります(東京23区・扶養なし単身の場合。限度額は市区町村が条例で定め、級地区分と扶養人数で動きます)。残る2つは、令和8年分の基礎控除が合計所得金額の区分ごとに104万円・67万円・62万円と階段で下がるために起きます。区分をまたぐと控除額が37万円・5万円まとめて減り、その分だけ課税所得が増えます。
段差の作り方はそれぞれ違いますが、共通しているのは「連続して増える額面に、区切りで決まる額をぶつけている」という形です。件数でいえば大半は社会保険料の側にあり、社会保険料が「幅で区切った基準額」を使うところから生まれています。事務処理の量を抑えるための仕組みが、境目での不連続を生んでいます。
自分の位置を確かめる
給与明細の健康保険料・厚生年金保険料の額を、協会けんぽの保険料額表と照らし合わせれば、いま自分がどの等級にいるかが分かります。等級表には各等級の報酬月額の範囲も書かれているので、次の等級との境目までいくら余裕があるかも読めます。
手取り計算機では、年収や月収を変えたときに社会保険料がどう動くかを確認できます。1,000円単位で入力を変えると、段差の位置が見つかります。